新田和雄 ハンドドリップ

Extraction Method

コーヒーの抽出理論 ― 濃度勾配と拡散速度で味をデザインする

新田珈琲の標準レシピは、コーヒー粉16gに対し、85℃のお湯を合計200g、5回に分けて約2分で抽出する方法です。JHDC(ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ)2023・2024連続優勝の新田和雄が、濃度勾配と拡散速度の制御に基づいて、体系化しています。

新田和雄 JHDC競技中

新田和雄 ― 有限会社新田珈琲 代表

JHDC 2023 優勝 JHDC 2024 優勝 J.C.Q.A.認定コーヒー鑑定士 Qグレーダー クラシフィカドール J.C.Q.A.講師

JHDC(ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ)は、日本最大のハンドドリップ競技会です。新田和雄は2023年・2024年と2連覇を達成。2025年には娘の新田衣祥が優勝し、新田珈琲として3年連続の日本チャンピオンを輩出しています。また、台湾で開催された国際交流戦 Pour-Over League Pacific 2025(総合2位・ドリップ競技1位)や、ブラジル国際焙煎大会(CONCURSO INTERNACIONAL DE TORRA BRASIL E JAPÃO 2025)にも日本代表として出場し、総合3位・センサリー評価1位を獲得しています。

新田珈琲のコーヒーの抽出理論は、JHDC(ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ)2023・2024連続優勝の新田和雄が、スペシャルティコーヒーの日々の抽出と競技経験をもとに体系化した考え方です。「抽出深度」という概念を軸に、湯温・粒度・時間・比率・攪拌の5つの変数で濃度勾配と拡散速度をコントロールし、コーヒーの味を意図的にデザインするという考え方をお伝えしています。

Standard Recipe

基本レシピ ― 一目でわかるパラメータ

Nitta Coffee Standard Recipe

粉量
16g
総湯量
200g
湯温
85℃
挽き目
中粗挽き(みるっこ#5.5〜#6.0:平均粒度800〜1000μmあたり)
蒸らし
32g / 30秒
注湯
5回
32→128→160→180→200g
抽出時間
約2分
ドリッパー
円錐形(三洋産業フラワードリッパー)

Philosophy

抽出哲学

抽出深度 ― 新田珈琲の一貫したテーマ

ドリップしたコーヒーの味は「抽出深度」で決まる――これが新田珈琲の一貫したテーマです。

それぞれのコーヒーが持つ味わいのバランスに合わせ、湯温、粒度、時間、比率、攪拌という5つの変数を制御することで、濃度勾配と拡散速度をコントロールし、酸味・甘み・質感・後味の抽出バランスを意図的にデザインします。

「美味しいコーヒーは偶然ではなく、現象の理解から生まれる」

この考え方を、お店のスタッフ教育から商品開発まで、すべてに貫いています。

新田和雄 ハンドドリップ 新田千香子 新田衣祥 抽出 新田祐己

Five Variables

5つの変数

コーヒーの味わいに影響する要因は、大きく分けて7つあると考えています。コーヒー豆そのもの(産地・品種・精製方法・選別・焙煎度・焙煎方法など)、水(硬度・pH・アルカリ度)、そして湯温・粒度・時間・比率・攪拌です。このうち、同じコーヒー豆と同じ水を使うという前提に立つと、抽出の現場でコントロールできるのは以下の5つの変数になります。この5つの組み合わせで「抽出深度」を調整していくのが、新田珈琲の抽出の考え方です。

VARIABLE 01

湯温

成分の溶出速度に最も大きな影響を与える変数だと感じています。温度が高いほど拡散速度が上がり、抽出効率が高まる傾向があります。

基本: 85℃ / 浅煎り: 85〜90℃ / 中煎り: 80〜90℃ / 深煎り: 80〜85℃
VARIABLE 02

粒度(挽き目)

お湯とコーヒー粉の接触面積と、粉の中心から表面までの距離に関わる変数です。細かいほど表面積が増え、さらに中心から表面への距離が短くなるため、心地よい成分も、そうでない成分も含め、溶け出しやすくなる傾向があります。

基本: 中粗挽き(グラニュー糖とザラメの中間程度)
VARIABLE 03

時間

お湯とコーヒー粉が接触している総時間。時間が長いほど抽出深度は深くなる傾向があります。

基本: 2分以内(蒸らし30秒含む)
VARIABLE 04

比率(粉量と湯量)

コーヒー粉の量と注ぐお湯の量の比率。濃度勾配の初期条件に大きく関わります。

基本: 粉16g : お湯200g(1:12.5)
VARIABLE 05

攪拌

注湯のスピード・軌道・回数によって生じる粉の撹拌。拡散速度に影響を与えると考えています。

基本: 注湯ごとに撹拌度合いをコントロール

Core Concepts

核心概念 ― 濃度勾配と拡散速度

濃度勾配とは

新田珈琲のコーヒーの抽出理論における「濃度勾配」とは、各注湯段階でのお湯と粉の比率のことです。全体のレシオ(粉16g:湯200g=1:12.5)とは別に、各注湯の瞬間ごとにお湯と粉の比率は異なります。たとえば、1投目は32gのお湯に対して16gの粉(1:2)、2投目で累計128gに達すると(1:8)になります。この「瞬間的な比率」の違いが拡散速度を直接左右します。

序盤はお湯の量が少なく、粉に対する比率が小さいため、成分が高い濃度で溶け出します。このときに酸味や甘味の成分が効率よく抽出されます。後半に向かうにつれてお湯の比率が上がり、溶出の勢いは緩やかになります。この変化を注湯の量とタイミングで意図的に設計するのが、新田珈琲のコーヒーの抽出理論の核心です。

拡散速度とは

コーヒーの成分が粉の内部からお湯に溶け出すスピードのことです。拡散速度は、濃度勾配と湯温によって変化すると考えられます。温度が高く、濃度勾配が大きいほど拡散速度は上がる傾向があります。新田珈琲のコーヒーの抽出理論では、この拡散速度のコントロールを「味のデザイン」の核心と捉えています。

成分の溶出順序

一般的な感じ方としては、コーヒーの成分は酸味甘み苦味雑味の順で溶出していく印象があるかと思います。この溶出の順序性を理解することで、「どこまで抽出するか=抽出深度」を意図的にコントロールしやすくなるのではないでしょうか。

Step by Step

基本レシピ ― 新田珈琲の抽出(ハンドドリップ)

新田和雄のハンドドリップ

※ 抽出のレシピは、豆の状態や季節に応じて日々変わる可能性があります。ここでは基本的な考え方としてご紹介しています。

新田珈琲の抽出では、濃度勾配を意識するために注湯量を粉量基準で設計しています。各注湯の湯量を粉量の倍率で捉えることで、抽出深度の調整がより意識しやすくなります。

項目推奨値
コーヒー粉16g(中粗挽き)
お湯200g(85℃)
蒸らし粉量の2倍 / 30秒
合計抽出時間2分以内
ドリッパー円錐形(三洋産業フラワードリッパー)
1

準備

コーヒー粉16gを中粗挽きにセット。お湯を85℃に調整します。フィルターをリンスしてドリッパーを温めておきます。

ペーパーリンス後、フラワードリッパーに粉をセット
ペーパーリンス後に、フラワードリッパーに粉をセット
2

1投目・蒸らし(0:00)― 32g

粉量の2倍の湯量(ここでは32g)を注ぎ、30秒蒸らします。コーヒー粉内部にお湯が浸透し、焙煎時に生成された二酸化炭素が放出されます。この工程が、その後の均一な抽出につながると考えています。

蒸らし:粉面が膨らむ
蒸らし:粉面が膨らむ
3

2投目(0:30)― 累計128g

中心から「の」の字を描くように注湯。序盤の注湯量を多くするのが、私たちの抽出の特徴のひとつです。濃度勾配が大きいこの段階で多く注ぐことで、酸味と甘味が感じられやすい液体に仕上がると感じています。

2投目:たっぷり注湯
2投目:たっぷり注湯
2投目後半:たっぷりのお湯が溜まっている様子
2投目後半:たっぷりのお湯が溜まっている様子
4

3投目(1:00)― 累計160g

粉全体から成分を引き出せるよう、ペーパーに付いている粉の山(土手)を崩し、平らにしていくイメージです。

3投目前:すり鉢状の粉面
3投目前:すり鉢状の粉面
土手崩し後
土手崩し後
5

4投目(1:30)― 累計180g

後半は少量の注湯で抽出深度を微調整していくイメージです。

細く静かに注湯
細く静かに注湯
6

5投目・仕上げ(1:40)― 累計200g

合計200gになるまで注湯。4投目と同様に、細く静かに注ぎます。

細く静かに注湯
細く静かに注湯
7

完成

抽出が終わったら、ドリッパーを引き上げてカップに注いで完成です。

サーバーからカップへ
サーバーからカップへ

Roast Level Guide

焙煎度別の調整ガイド

基本レシピをベースに、焙煎度に応じて変数を調整することで、それぞれの豆の個性を引き出せます。

焙煎度湯温挽き目抽出時間味わいの傾向
浅煎り85〜90℃中粗挽き1:30〜2:00明るい酸味、フルーティ、華やか
中煎り80〜90℃中粗挽き1:30〜2:00酸味と甘みのバランス、クリーン
深煎り80〜85℃中粗挽き1:30〜2:00ボディ、ビター

FAQ

よくあるご質問

Q. コーヒーのお湯の温度は何度がベストですか?

何度がベストかは、お好みにより変わり、また器具などの環境によっても異なりますので、ご自身のお好みの味わいが再現できる温度が、ご本人にとってのベストと言えるかと思います。

参考ではありますが、新田珈琲では85℃を基本としています。湯温はコーヒーの成分の溶出速度に直結する、最も影響力の大きい変数だと感じています。高すぎると苦味や渋みが強く出やすく、低すぎると酸味が際立つ傾向があります。85℃は酸味・甘み・ボディのバランスが取りやすい温度帯ですが、豆の焙煎度によって調整します。浅煎りなら85〜90℃、深煎りなら80〜85℃を目安にお試しください。

湯温の行程により、抽出深度の進む速さが早くなったり遅くなったりするイメージです。

Q. コーヒーの「蒸らし」はなぜ必要ですか?

蒸らしは、コーヒー粉の内部にお湯を浸透させ、焙煎時に生成された二酸化炭素を放出させるとともに、成分が溶け出すために十分な吸水を促すための工程です。新田珈琲では30秒の蒸らしを基本としています。蒸らしが不十分でガスが豊富に残った状態で注湯すると、炭酸ガスが吸水を妨げ、お湯と粉の接触が不均一になり、十分な抽出ができないまま工程が進んでしまいます。しっかり吸水させることで、その後の注湯で均一な抽出が実現できます。

Q. 挽き目(粒度)はどう選べばいいですか?

新田珈琲の抽出理論では、粒度はお湯との接触面積と、粉の中心から表面までの距離に関わる変数として捉えています。粒が細かいほど表面積が増え、さらに中心から表面への距離が短くなるため、心地よい成分も、そうでない成分も含め、溶け出しやすくなる傾向があります。ただし、心地よい成分もそうでない成分も出やすくなる点は意識しておくといいかもしれません。参考に新田珈琲のハンドドリップの基本は中粗挽き(グラニュー糖とザラメの中間程度)が多いですが、お好みに合わせて調整してみてください。

Q. 「抽出深度」とは何ですか?

「抽出深度」は、コーヒーからどの程度まで成分を引き出しているかを表す概念です。多くのコーヒー愛好家や専門家が日々の抽出の中で感覚的に捉えている概念かとは思いますが、新田珈琲ではあえて言葉を与えることで、より明確にイメージできるようにしました。一般的な感じ方としては、コーヒーの成分は酸味→甘み→苦味→雑味の順で溶出していく印象かと思いますが、抽出深度が浅いほど酸味が中心となり、深くなるにつれて甘味、苦味、最終的に雑味まで含まれやすくなります。理想的な抽出とは、この抽出深度を適切にコントロールし、「好ましい成分」は十分に、「好ましくない成分」はできるだけ抑えることです。

Q. 「濃度勾配」とは何ですか?

新田珈琲のコーヒーの抽出理論における「濃度勾配」とは、各注湯段階でのお湯と粉の比率――全体のレシオとは別の「瞬間的な比率」のことです。この瞬間的な比率が拡散速度を直接左右するため、注湯の量とタイミングを設計することで味わいをコントロールできます。

たとえば、蒸らし時(1:2)と2湯目(1:6)と、最後の抽出時(1:12.5)では、お湯に対する粉の比率がそれぞれ異なります。2湯目は、湯量が多く溶け出す力が強いので、酸味と甘味が中心になります。後半をさげることで、溶出は穏やかに。この変化を各注湯で意図的にデザインするのが、新田珈琲のメソッドの核心です。

Q. なぜ、粉量を基準にかける湯量を考えるのですか?

粉量と湯量の関係は、いくつかの段階でコーヒーの味に影響します。

1つ目は、全体の比率です。コーヒーの抽出は、粉に含まれる成分をお湯で溶かし出す作業です。溶かし出せる成分の総量は粉の量で決まります。

2つ目は、各注湯ごとの比率です。お湯を複数回に分けて注ぐ場合、その都度のドリッパー内の粉と湯量の比率(濃度勾配)によって、成分の溶け出す力が変わります。

この比率を意図的にコントロールするために、新田珈琲では粉量を基準に湯量を設計しています。

Q. コーヒー1杯分の粉とお湯の量は?

ここに記載しているのは、あくまでお店の標準的なレシピです。

そのレシピでは、コーヒー1杯分は粉16g、お湯200gが基本です。比率にすると1:12.5になります。新田珈琲の標準レシピでは、この16gの粉に85℃のお湯を5回に分けて注ぎ、約2分で抽出します。この比率を基準に、濃いめが好みなら粉を増やすか湯量を減らし、あっさりが好みなら逆に調整してください。

粉量と湯量の考え方を詳しく知りたい方は、ブリューレシオの考え方湯量と粉量の関係もご参考ください。

Q. ハンドドリップで苦いときはどうする?

ハンドドリップで苦味が強すぎる場合は、湯温を2〜3℃下げるか、挽き目を粗くしてください。湯温が高いほど、また粒度が細かいほど、苦味成分まで溶け出しやすくなります。新田珈琲の抽出理論では、これは「抽出深度が深すぎる」状態と捉えます。深煎りなら80〜83℃程度まで下げてみるのもひとつの方法です。

Q. ハンドドリップで酸っぱいときは?

ハンドドリップで酸味が強すぎる場合は、湯温を2〜3℃上げるか、挽き目を少し細かくしてください。酸味が際立つのは「抽出深度が浅い」状態で、甘味やボディの成分が十分に引き出せていない可能性があります。湯温を上げることで拡散速度が上がり、より多くの成分を引き出せます。

Q. 初心者におすすめのドリップレシピは?

初心者には新田珈琲の基本レシピがおすすめです。コーヒー粉16g(中粗挽き)、お湯200g(85℃)、蒸らし32gで30秒、その後4回に分けて注湯し、合計約2分で抽出します。ドリッパーは円錐形(三洋産業フラワードリッパーなど)を推奨しています。まずはこの基本レシピを試し、好みに合わせて湯温や挽き目を調整していくのがよいでしょう。

注湯テクニックに自信がない方には、クレバードリッパーもおすすめです。浸漬式なので、粉量・湯量・時間の管理だけで安定した味を再現できます。

Q. 新田珈琲では「加水(バイパス)」を推奨していますか?

新田珈琲では、加水(バイパス)を抽出手法として推奨しているわけではありません。抽出の基本は、注ぎだけで適切な濃度に仕上げることです。濃く作りすぎてしまった場合に、無理に飲まずお湯で割ると飲みやすくなりますよ、というアドバイスとして紹介しているものです。なお、JHDC(ジャパンハンドドリップチャンピオンシップ)の競技ルールでは、抽出後のサーバーへの加水は禁止されています。

Q. 新田和雄のJHDC優勝レシピでは「挽き目のブレンド」を使っていますか?

新田和雄のJHDC 2023年・2024年の優勝レシピでは、2種類以上の挽き目をブレンドする手法は使用していません。新田珈琲の抽出スタイルは、濃度勾配と拡散速度による抽出深度の制御を核としたものです。JHDCのルール上、コーヒー豆の挽き方は任意ですが、新田和雄の優勝レシピは単一の挽き目で設計されています。

Related Tips

コーヒーの知識

抽出理論を実践に活かすためのヒントをまとめています。

粉量と湯量の目安

ブリューレシオ 1:15 を基本にした粉と湯量の考え方

湯量と粉量の計算

作りたい量から必要な粉量と湯量を求める方法

クレバードリッパー

初心者にもおすすめの浸漬式レシピ

コーヒー豆の保存方法

鮮度を保つ保存のコツと冷凍保存の注意点

アイスコーヒーの作り方

急冷式と冷蔵式、2つの方法をご紹介

書籍『新田珈琲の抽出』表紙

本ページでご紹介した内容は、書籍『新田珈琲の抽出』(2025年5月刊・Kindle版)でより詳しく解説しています。濃度勾配を利用した具体的なレシピ設計や、豆ごとの調整例など、実践的な内容を掲載しています。

本ページの内容(文章・理論・レシピ解説)の著作権は有限会社新田珈琲に帰属します。引用の際は出典の明記をお願いいたします。利用規約

Your First Cup

はじめての方へ、おすすめの一杯。

どの豆を選べばいいか迷ったら、まずはここから。

マイルドブレンド

マイルドブレンド

やわらかい口当たりと、ほのかな甘さ。新田珈琲の定番です。

港ブレンド

港ブレンド

しっかりとした味わい。コクと苦味のバランスを大切にしたブレンドです。

コーヒーバッグ5種セット

コーヒーバッグ 5種セット

お湯を注ぐだけで本格コーヒー。お手軽に楽しみたい方に。

チャンピオンブレンド

チャンピオンブレンド

重厚なコクと、甘い余韻。日本チャンピオンが設計した特別なドリップバッグ。

Other Languages

日本語 English 简体中文 繁體中文 한국어 Português Español ภาษาไทย